目次
はじめに
YouTubeクライアントのまとめを書いたり、自分でクライアントを作ったりしていたところ、それぞれのアプリが互いに影響しあいながら進化を続けていることに気づいてしまいました。気になったのでめちゃくちゃ調べて記事にしました。
最終的にはこうなります。
youtube-dlとyt-dlp、CloudTubeとInvidious、FreeTube、NewPipeとSkyTube、PipedとLibreTube、OGYouTubeとVancedの順で紹介していきます。
youtube-dlとyt-dlp
2006年、rg3によりyoutube-dlの開発が始まる
YouTube動画に非公式にアクセスするソフトウェアの中では現存最古と思われるyoutube-dlの開発は、2006年に始まっています。最初の開発者、rg3 (Ricardo Garcia) が2011年にメンテナをやめてからは、phihag (Philipp Hagemeister)、dstftw (Sergey M.)がリーダーを歴任し、現在ではdirkfが管理しているようです。
2020年10月、DMCAで消されるも11月に復活
まだ記憶に新しいと思いますが、アメリカレコード協会 (RIAA) からの申請によって、youtube-dlのリポジトリがGitHubから削除されてしまいます。11月に復活しましたが、これを一因としてyoutube-dlのフォークが複数生まれました。
yt-dlc(youtube-dlc)としてフォーク、さらにフォークされyt-dlpに
youtube-dlが削除された直後、youtube-dlはyt-dlc (youtube-dlc) としていくつか機能が追加されました。それを基にさらにyt-dlpとしてフォークされ、現在に至ります。
CloudTubeとInvidious
2017年ごろ、HookTubeが公開
そもそものきっかけは2015年に起きたゲーマーゲート論争です。Twitterを中心に論戦が激化し、嫌がらせとして、ゲーマーたちのツイートの魚拓を取るためにTweetSaveというサービスが立ち上げられました。日本でも窓の杜やGigazineで紹介されています。
このTweetSaveを作ったのがWill JZ (@wjz、B0ing?、ノルウェー人と思われる) という人物です。彼は4chを中心に活動する極右だったようです。
アメリカ政府の体制への不信から、Will JZはYouTubeに匿名でアクセスできるHookTubeを開発しました。
Googleに個人情報と収益を渡さないことを目的に作られたHookTubeでしたが、広告ブロックを目当てに、意図せずユーザーが増え、かなりアクセスを伸ばしたようです。
2018年中頃、HookTubeが終了
有名になっていたHookTubeですが、YouTube APIを利用して動作していたため、Googleから停止の要求を受けてサービスを終了しました。
2018年7月、CadenceがCloudTubeを作る
HookTubeのユーザーだったCadence Emberは、HookTubeの終了を受け代替サービスの開発を始めます。これがCloudTubeです。この時点では、CloudTubeはHookTube同様にYouTube APIを利用していました。
Omar RothがInvidiousを公開
omarroth (Omar Roth) によって、Invidiousが公開されます。2017年11月から開発していたのですが、HookTubeが終了した頃に注目され始めたようです。
InvidiousはClystalというマイナーな言語で書かれています。Omarが個人的な勉強のために始めたプロジェクトだったとのこと。YouTube APIを使わず、スクレイピングで動画を取得する仕組みです。
Cadence、CloudTubeをInvidious APIに移行
YouTube APIを利用していたCloudTubeは、いずれHookTubeのようにGoogleから停止要求を受けることが予想されていました。そこで、Invidiousがスクレイピングをもとに提供するAPIを使うよう、変更されました。
2020年8月、Omar失踪
Invidiousを開発していたOmarは、Invidiousを終了する旨を発表した上で、以後活動がなくなりました。ほとんど知られていないClystalを使っていたために、開発を行えていたのはOmarただ1人だけだったとのこと。代わりにInvidiousを管理する開発者を探しますが、Clystalを書ける開発者が見つからないため、難航します。
Cadence、youtube-dlベースのAPI、NewLeafの開発を始める
Invidious APIに依存しているCloudTubeは、Invidiousが更新されなくなると動作できなくなるため、代替のAPIを模索。youtube-dlをベースに、APIのみ提供するバックエンドNewLeafを開発。以後、CloudTubeはInvidiousとNewLeafの2つのAPIに対応することになります。
Invidious、開発者を集めてなんとか存続
Omarが開発から離れたInvidiousでしたが、後継者を無事見つけ、現在まで開発が続いています。
FreeTube
2017年12月、YouTubeの代替としてFreeTubeの開発を開始
YouTubeのおすすめ動画などのトラッキングに不信感を持ったことから、2017年末にYouTubeの代替アプリの開発が始まります。この頃には既にHookTubeが存在していましたが、チャンネル登録や動画ダウンロード機能はなかったため、代替にはならなかったようです。
2018年3月にFreeTube最初のリリース。機能はチャンネル登録以外はHookTubeと同程度でした。
2018年中頃、HookTubeの終了をきっかけにInvidious APIに移行
YouTube APIを利用していたFreeTubeは、この頃サービス終了したHookTube同様に停止されてしまうリスクがあったため、Redditで注目されていたInvidious APIに乗り換えます。
2020年2月、FreeTubeの書き直しを開始
コードが煩雑になりバグの増えたFreeTubeを、一から再設計することになりました。
2020年8月、Invidious終了のため内部APIに移行
終了が発表されたInvidious APIへの依存をやめ、新しく開発したFreeTube独自の内部APIを使うよう変更しました。以後FreeTubeはInvidious APIと内部APIの両方に対応しています。
2020年10月、書き直しが完了
再設計されたFreeTubeが完成し、リリースされました。
NewPipeとSkyTube
2015年9月、theScrabi、NewPipeをリリース
theScrabi (Christian Schabesberger)が、Android用クライアントNewPipeの最初のバージョンをリリースしました。NewPipe Extractorを利用し、アプリ内でYouTubeのWebページを解析してアクセスする仕組みです。NewPipe ExtractorはNewPipeから独立して動作することができ、後のアプリにも頻繁に利用されることになります。
2015年11月、SkyTubeの開発が始まる
NewPipe登場からわずか2か月後、NewPipe Extractorを利用したSkyTubeの開発が始まります。最初のリリースは2016年2月のようです。
PipedとLibreTube
2020年11月、KavinがPipedの開発を始める
2020年11月にNewPipe Extractorをサーバー上で動作させるPipedの開発が始まりました。
2021年12月、LibreTubeの開発が始まる
Piped APIを利用したLibreTubeの開発が始まります。2022年2月には、YouTube Vancedが法的問題で終了したため、注目が集まり急成長しました。
OGYouTubeとVanced
2013年3月、改造アプリOGYouTubeが公開
動画のダウンロードやバックグラウンド再生、ポップアップ再生などの機能を持った改造YouTubeアプリOGYouTubeがXDA Developersで公開されました。
2013年10月、YouTubeアプリにバックグラウンド再生機能が搭載されたことが確認される
Android Policeの調査で、Android向けのYouTubeアプリにバックグラウンド再生機能が追加されたことが確認されます。
2014年11月、YouTubeがYouTube Music Keyとして有料サービス開始
YouTubeの有料サービス「YouTube Music Key」が開始します。公式の音楽を再生できるようになるほか、バックグラウンド再生やオフライン再生が特典として付属していました。
後にYouTube Redに改名され、さらに現在のYouTube Premiumに再改名されました。
2015年2月、YouTube Background Playbackの開発が始まる
有料機能であるバックグラウンド再生を、root権限のある端末でのみ、無料で利用できるようにするXposedモジュール「YouTube Background Playback」の開発が始まります。
2017年2月、Master_TがYTBPを適用したAPK「iYTBP」を公開
XDA Developersで活動していたMaster_Tが、YouTubeをバックグラウンドで再生できるアプリ「iYTBP」を公開します。これは、YouTube Background Playbackを直接APKに適用することで、非rootの端末でもYouTubeをバックグラウンド再生できるアプリでした。
iYTBPをベースにVancedが誕生
XDA Developers上で活動していたxfileFIN、Laura、ZaneZam、KevinX8の4人は、iYTBPにさらに手を加え、広告を削除したバージョン「Vanced」を公開します。
このVancedが人気になり、改造版YouTubeアプリの定番になっていきます。
2022年2月、法的問題でVanced終了
Googleから通告を受け、Vancedの開発が終了しました。現在では、代替としてReVancedなどが利用されるようになっています。
まとめ
というわけで、ここまで出てきた流れをまとめると最初のこの図になるわけです。Googleに怒られては別のサービスが出て、また怒られてはもっと使いやすいものをと、どんどん後継サービスができていることがわかりますね。ここに挙げたのは主要なプロジェクトのみで、さらにたくさんのフォークや各APIを利用したアプリが存在しています。
そして、これらの情報が知られないままになってしまっている現状がありますね。YouTube Vancedなんか、誰がどうして作っていたのかほとんど知られずに終了してしまっていますから。
それと、こうやって眺めてみると、NewPipeのUIはOGYouTubeの影響を受けているなぁとか、そういう発見もあってなかなか楽しいです。
内容に誤りや抜けを見つけたらご連絡ください。ではでは。